自己複雑性の測定法に関する一考察
−TSTを用いて−




向井 愛
大阪大学 人間科学部 人間科学科
臨床教育学コース 教育心理学講座


keywords : 自己複雑性 self-complexity 自己表象 自己認知 エントロピー ストレス TST 20答法 WAI技法


−要約コチラ−





注釈
本サイトは大阪大学人間科学部の卒業論文をHTML化したものです。
2001年1月16日提出時の論文と幾分内容が異なる箇所があります。
提出論文のデータが消滅したため、本論文は、年末時における執筆途中の状態に後から手を入れたものです。
また当校の卒業論文は規定の文字数を超過する必要がありましたが、本HTML版では、不要な箇所を数箇所削除・修正しました。
それでも読みづらい点が多々ありますことをどうかご了承ください。
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目次

序論
   第1章 理論編
 1.認知システム
 2.認知的複雑性
 3.自己複雑性とは
   3.1.自己についての想定
   3.2.複雑性の仮説
   3.3.自己複雑性の算出
 4.指標Hについて
 5.Linville(1985,1987)以降の研究
   5.1.全体的な自己複雑性
   5.2.Positiveな自己複雑性とNegativeな自己複雑性
   5.3.実証できなかった例
   5.4.自己複雑性研究結果の不一致について
 6.問題点
   6.1.noグループについて
   6.2.指標Hと使用特性の関係
   6.3.真の人格特性と暗黙の人格特性
   6.4.臨床との関係
   6.5.その他形容詞リストを用いることの限界
 7.TSTについて
 8.肯定的特性語と否定的特性語の総数について
   第2章 調査編
 9.目的
 10.方法
   10.1.特性語の抽出
   10.2.Positive/Negativeの選定
   10.3.特性語のグループ分け
   10.4.自己複雑性と関連が予測される尺度の評定
   10.5.指標Hの算出
 11.結果
   11.1.ストレス反応尺度及び自尊感情尺度項目分析
   11.2.尺度間相関
   11.3.信頼性
   11.4.各得点の平均
   11.5.性差
   11.6. 各指標の関係
   11.7.複雑性の指標Hと使用特性数との関係
   11.8.[分析その1]と[分析その2]について
 12.考察
 13.今後の自己複雑性について
 
参考文献
謝辞




序論

 私たちの気分や感情、あるいは行動は、なんらかの出来事によって左右される。 例えば、ある人物が意に反して失恋した場合、その人は嫌な感情を味わうだろう。落ち込むかもしれないし、不機嫌になるかもしれない。
 しかし、私たちがある出来事に影響される程度には、個人差がある。同じような否定的体験をした人が、同じように挫折を味わう訳ではない。 なんらかの出来事に対して、気持ちが極端に大きく揺れる人もいれば、一方でほとんど影響を受けない人もいる。 感情や情緒が自己の中で広がる程度、すなわち広がりやすさが異なっていると思われる。 当論文では、人が自分自身を認知したり表象したりするシステムに注目して、これらの感情や情緒の揺れに対するアプローチを行う。 本研究が、人間の情緒メカニズム解明に向けて、学問上の手助けとなることを期待する。また同時に、精神的あるいは身体的健康を追求する臨床的立場への貢献ができることをも期待する。





第1章 理論編


1.認知システム

 第二次世界対戦後発展してきた情報科学や、1950年頃から急速に発展してきたコンピュータの普及が、認知心理学の成立に影響を与えてきた。
 「情報」という実体のなかったものが、客観的、数量的、科学的に研究できることが明らかになってきたのである。  応用数学者Shannon(1949)による情報理論は、情報を1と0の系列に符号化し情報をビット(bit)という単位で測定できるようにした。 情報の能率的な伝達に適した符号化の方法の数学的な分析という観点から、情報量の定量化に成功したのであった。(Goldstein & Blackman 1978 )
 このような情報の定量化は、心理学においても活用された。それまでの心理学で、知覚、記憶、理解、推理、判断など、それぞれの機能に分割されて研究されていたことが、「認知」という言葉で全体にまとめることのできるような情報処理過程であることが気付かれた。その後このような認知の解明のために発展を続けた認知心理学は、社会心理学や発達心理学の領域にも取り入れられるようになった。



2. 認知的複雑性

 認知スタイルの流れを踏まえて、その後の社会心理学や人格心理学に大きく影響を与えることになった人物であるKelly(1955)は、認知スタイルの考えから、「人は自己を取り巻く世界を認識的に組織化することに積極的に参加するものである」と主張した。
 杉山・堀毛(1999)によれば、Kelly(1955)のいうコンストラクトとは、「個々人が自分の世界を知るために作りあげた認知のパターン、いわば眼鏡のようなものであり、個人の世界を秩序だてる方策とされる。現実に生じる様々な事象は絶対的な意味をもたず、その解釈はコンストラクトを通じてなされることにより個人ごとに独自なものになる」と表現されている。
  Kelly(1955)のコンストラクト理論によれば、個々人の性格や特徴は、個々人のもつコンストラクトシステムに求められることになる。

人は自分で創り出した目に見えないパターンや鋳型を通して世界を見る。そして、そのような世界を構成している現実に自己を適合させようとする。[Kelly,1955](Goldstein & Blackman 訳書 1982、110頁)

 Bieri(1955)は、 Kelly(1955)のパーソナル・コンストラクト理論をもとに「認知的複雑性(cognitive complexity)」の概念を提唱した。認知的複雑性とは、「パーソナリティを記述する一変数であり、特定の個人がどれほど他者を多次元的に認知しているかを示す項目」である(山口・久野、1994)。
 Bieriをはじめ多くの研究者たちが独自に認知的複雑性に関する研究を行っている。以下にその代表的な例をいくつか示す。

[Bieri (1955) の複雑性]
人物のパーソナルコンストラクトが、自分自身や他人の描写に異なって表れる程度としての認識的複雑性。パーソナルコンストラクト理論(personal constract theory)に基づいたレパートリーグリッド方法論(repertory grid methodology)を用いている。
環境を多次元的に表象することが「分化(differentiation)」であり、そして判断時に、その多次元的な情報を一元的な情報に変換することを「統合(integration)」と定義される。この「分化」と「統合」を測定することによる認知的複雑性。
[Crockett (1965) の複雑性]
分化(自己を構成している要素の数)としての認識的複雑性。統合(構成要素間の関連性の結束)と対になっている。役割人物を記述するのに使用した形容詞の数を複雑性の指標としている。
[Rosenberg & Sedlak (1972) の複雑性]
多次元な空間内での次元数と次元内の構成要素(エレメント)の類似性の数で表される人物認知の複雑性。
[Anderson (1976) 、Anderson, Kline, & Beasley (1979) の複雑性]
結合したネットワークでの集合点(node)の数と集合点間のリンクの数によって定義される複雑性。特性の数と特性の冗長度をindicantsとして特性セット表象で後(1979)に使った。
[S. Rosenberg and Gara (1985)の認知的複雑性]
人格階層モデルに基づく特性階級の数と部分集合ー全体集合の関係による、パーソナルアイデンティティの構成的表象としての認識的複雑性(elaboration精巧と彼らは呼ぶ)。
[Schroder et al.(1967)の認知的複雑性]
各次元に表象していた対象を結合する、抽象性としての認知的複雑性。
[Landfield(1977)の認知的複雑性]
形容詞群のクラスター数としての分化性と、弁別性と極端性の積としての統合性からなる認知的複雑性。



3. 自己複雑性とは

 他者あるいは物の認知を測定する様々な認知的複雑性の研究が行われる中、これらの概念を「自己」の認知に取り入れたのがLinville(1985、1987)であった。Linvilleは、ある領域についての人々の考えに含まれている、端的で他と弁別できる自己の特性の数によって、複雑性を定義し、測定した。


3.1. 自己についての想定 

まずLinville(1985)は、自己について4つの想定をあげた。

想定1 自己は複数の側面によって認知的に表象される。
 私たちは自分自身を複数の側面によって考えている。
ある人物は、自分に対する認知を社会的役割の分別(例えば、私はスーパーのレジ係、私は自治会の会長、私はテニスプレーヤー、私は子どもの母親、私は友人)によって組織化しているかもしれないし、あるいは、対人関係の種類(子どもの前での私、夫の前での私、職場での私、旧友の前での私、ライバルの前での私)で組織化しているかもしれない。
さらに、自己に関する表現法は、特定の出来事や行動についての情報を含んでいるかもしれない(例、「私は今日会社で6時間働きました」)。あるいは、繰り返された観察から発展した一般化を含んでいるかもしれない(例、「私は働き者です」)。

 自己の複数の側面についての想定は、James(1892)にまでさかのぼることができる。 James(1892)は、自己を「主体としての自己(I)」と「客体としての自己(me)」に別け、さらに客体としての自己を、物質的自己(material me)、社会的自己(social me)、精神的自己(spiritual me)の3つの構成要素に分けている。James(1892)に始まり、その他多くの研究者(例 Gergen 1971、Gordon 1968、Sullivan 1953、etc.)も、人は自己を複数の側面から認知している考えを述べている。もはや自己は単一の側面でのみ成り立っていると主張する学者はほとんどいない。よってこのLinvilleの第1の想定は、現在では十分に支持された考えである。

想定2 自己の側面は様々な感情と様々に結びついている。

情緒や自己評価は、少なくともある程度は自己の特定の側面にリンクしている。例えば、ある人物が自分のことを良く感じるのは、学生としての側面ではなく、スポーツ選手としての側面である場合がある。

想定3 人々の自己表象の複雑さの程度は異なっている。

ここで定義される自己の複雑性は、二つの機能をもつ。それは、人が認識的に自己についての知識を組織化するために用いる側面の数、そして、それらの側面の関連性の程度である。つまり自己複雑性はここでは、側面の数と側面の独立程度の連帯機能(joint function)として定義されている。

想定4 全体的な情緒や自己評価は、自己の各側面に結びついた情緒や自己評価の作用である。
全体的な情緒や自己評価に帰着する実際の過程が何であっても、全体的な情緒や自己評価は、個々の側面に関連している情緒や自己評価の重み付けられた平均であるとみなされる。またそのようなモデルによって概算することができる。この平均過程において、重要なあるいは顕著な自己側面は、他の側面より大きな重み付けを受けることになるであろう。


3.2. 複雑性の仮説

上記の想定に基づいて、Linville(1985)は以下のような仮説をたてた。
ある人の自己の認識的表象が複雑でないほど、その人の情緒や自己評価は極端になるだろう。すなわち、表象が単純な時、情緒や自己評価が比較的に極端になるだろう。表象が多様で複雑な時、情緒や自己評価は穏やかになるだろう。

 例えば部活動で野球に打ち込んできた少年が、大切な試合で負けてしまった時を考えてみよう。
Linville(1985)の考えによれば、その少年にとって野球という側面が彼の他の類似した側面や社会的側面に類似したつながりをもつ場合、彼の失敗に関連している否定的な感情や自己評価は、広範囲に広がりやすく、その結果、自己の他の側面にまで否定的な感情に見舞われるであろう。
もしその少年が自分自身を複雑に表象しているならば、彼の他の側面は、影響が及ぶほどには野球の側面と類似したつながりをもたないであろう。


3.3. 自己複雑性の算出

Linville(1985、1987)は情報理論(Shannon & Weaver 1946)に基づく統計量H(Attneave1959、 Scott 1969)を用いて自己認知の複雑性を算出した。

H = log2n - ( Σ ni log2 ni) / n ・・・・(式1)
n :特性語の総数
ni:グループの組み合わせの各パターンに該当する特性語の数

 自己複雑性の算出の結果、自己複雑性が低い人は高い人に比べて、失敗時に極端な感情を抱き、自己評価も下がるという結果や、同じく自己複雑性が低い人は高い人に比べて気分の変動が大きいという結果を得ている。またLinville(1987)は、ストレスフルな出来事のあとでは、自己が複雑に分化している人の方が抑うつになりにくく、風邪等の身体的病気にもかかりにくいことを確認した。

 これらの結果より、自己の複雑性が、否定的な出来事による精神的・身体的健康へ影響を緩和していることが仮説通りに言えたのであった。



4. 指標Hについて

ここではLinville(1985、1987)が自己の複雑性を算出するのに用いた指標Hについて説明を加える。
 この統計量Hは、情報理論におけるC.E.シャノン-N.ウィナー情報測度、あるいはエントロピーと呼ばれるものに対応している(Attneave 1959)。この統計量は、用いられる情報量が多いほど(数が多く、なおそれらが独立し合っているほど)値が大きくなる。すなわち自己の認知的表象が複雑なほど、指標Hは大きくなる。
 Linville(1985、1987)は、あらかじめ用意した33個の性格特性語を、被験者に自己照合的に分類させた。被験者は、役割、対人関係、活動、目的、等の、自己の様々な側面を表すグループを作成し、それらのグループに名前を付ける。グループを作成する際、同じ性格特性語を何度用いてもよいし、1度も使用しない特性語があってもよい。
 こうして得られたデータからグループの組み合わせパターンを抽出し、それを被験者の回答パターン、つまり自己の認知的表象のパターンとして扱っている。
統計量Hの算出式
H = log2n - ( Σ ni log2 ni) / n
において、nは特性語の総合数niは特定の組み合わせカテゴリーに出てきた特性語の数であり、n = Σ ni である。
 組み合わせカテゴリーとは、例えば、ある被験者の側面数がAとBとCという3つのグループで表象された場合、組み合わせカテゴリーは、「Aのみ」、「Bのみ」、「Cのみ」、「AかつB」、「AかつC」、「CかつB」、「AかつBかつC」、それに「noグループ」の8つが可能な組み合わせカテゴリーとなる 。側面数がN個で表象されるなら、組み合わせカテゴリー数は2N存在する。
 そして、それぞれの組み合わせカテゴリーで用いられた特性語の数を数えるのである。ここで「AかつB」のような組み合わせを考慮するのは、被験者が特性語を同じパターンで用いているからという理由である(Scott 1969)。
特性語を含んだ組み合わせカテゴリーが増えると、統計量Hは高くなる。



5. Linville(1985、1987)以降の研究

5.1. 全体的な自己複雑性

 Linville(1985、1987)以降、自己複雑性と抑うつや自尊感情との関連性についての様々な研究が行われてきた。
 Campbell, Chew, & Scratchley (1991)は、自己の複雑性と自尊感情の間に正の相関があり、ともにその高さが日々の気分の変動性と負の関係にあるという結果を報告している。
 Dixon & Baumeister(1991)は、自己複雑性が低い人の方が、失敗フィードバック後の回避反応が顕著であることを見い出し、失敗による脅威に対して、自己の複雑性が緩衝効果を与えていると主張した。さらに、自己複雑性の低い人は失敗後の作業成績が低下するが、自己複雑性の高い人は失敗後の作業成績が向上しており、自己複雑性は否定的な感情を和らげるだけでなく、積極的な対処を生み出すという行動面にも影響を与えていると言う。
 Smith & Cohen(1993)は自己複雑性の高さが、学生が失恋時に感じる否定的な出来事の数と抑うつの間の関係を弱めていたことから、自己複雑性の否定的出来事に対する緩衝効果を見い出した。
 Evans(1994)は思春期の若者を対象に調査を行い、回帰分析の結果から、自尊心が不変ならば自己複雑性は抑うつの指標となりうると結論付けた。
 Garden(1998)は、人に対する評価や態度が極端から極端に変化する境界線人格障害(Borderline personality disorder)の人は低い複雑性しか持たないのではなか、という仮説をたて、そして仮説通り境界線人格障害者が、他の人格障害者より自己複雑性のスコアが際立って低いという結果を得た。また、境界線人格障害者は特性形容詞の使用数も少なかった。
 Conway & White(1999)は、注意の力量(attentioal resource)が高い人は、自己複雑性が高いという結果を得ている。自己複雑性が認知の量を表す指標であることを裏付ける結果と言えよう。


5.2. Positiveな自己複雑性とNegativeな自己複雑性

 自己複雑性の指標として妥当性が認められつつある統計量Hであるが、Woolfolk, Novalany, Gara, Allen, & Polino (1995)は、自己認知のPositiveな側面とNegativeな側面それぞれについて指標Hを算出する必要性を説いた。 Linville(1985、1987)らが主張する自己複雑性は、抑うつに対する緩衝効果やストレス耐性の高さと有意でないどころか、 Negativeな側面での自己認知の複雑性の高さは、抑うつ性の強さを示唆していたのであった。

■肯定的自己複雑性について
 Linville(1985、1987)のモデルに以降に行われた数々の研究結果から、肯定的自己複雑性の働きは、ストレスフルな出来事から生じる否定感情が活性するのを防ぐことである、とまとめられる。
 複雑性と情緒反応との関連性は、専ら否定的感情との間で見られており、肯定的な気分や情動反応との関連性はまだあまり見出されていない。
 Linville(1985、1987)が打ち立てた複雑性のモデルが、この肯定的自己複雑性に当たる。 Linvilleは特定の出来事はそれと関連する思考や感情を活性化させるという活性化拡散モデルに従い、(肯定的)自己複雑性が高ければ、活性化の及ばない他の側面による緩衝を受け、出来事の衝撃が小さくなるであろうと仮定したのであった。
 この活性化拡散モデルに従うならば、肯定的自己複雑性は活性化を邪魔する「壁」の強さと言えるだろう。「緩衝(buffering)」という言葉がよく使われているが、むしろ否定感情の「拡散妨害」や否定感情侵食からの「保護」などの表現がふさわしいと思われる。緩衝は、肯定的自己複雑性がPositiveな感情を拡散させることによって、直接的に自己の全体的な否定的感情を和らげる時に用いられる言葉である。“Don't Put All of Your Eggs in One Cognitive Basket”(あなたの卵を全部一つの認識的バスケットに入れてはいけない)というLinville(1985)の論文副題にも示されているように、全体としての自己を否定感情から守るのは、卵をそれぞれ別のバスケット分けて入れるという対処法、防衛策なのである。卵は直接的に自己を守ってはくれない。
 同じく佐藤(1999)も肯定的自己複雑性の、そのような間接的な働きについてコメントをあげている。
「現行の出来事に影響を受けない肯定的な他の側面が存在しても、それが想起されなければ緩衝効果は生じない」(pp138)
 つまり「妨害」や「保護」の機能をもった側面が存在していても、それらは単独で働くことはできない。必ずその機能の対象、つまり目的語的な存在(「〜を妨害」、「〜から保護」という表現の場合の「〜」に当たる存在。)が必要となる。

■否定的自己複雑性について
 否定的自己複雑性の働きは、否定的な出来事から生じた否定的な情動反応等を、自己の各側面に広く拡散させることである。Linvilleの活性化拡散モデルがこの否定的自己複雑性に当てはまる。嫌な気分やムードは、肯定的な気分よりも「漏れる(spill-over)」傾向が強い。
 抑うつ状態では気分一致の想起バイアスと、気分と一致する素材のさらなる精緻化が顕著であることが見出されている(Mineka & Nugent,1995)。否定的な気分はよ良く似た他の否定感情と共鳴し合っているのである。
 人が抑うつ感情を抱く理由として、認知モデルの立場からBeck,A.Tは@自分自身、A外の世界、B未来に対する否定的な認知を「抑うつ反応の3要素」と呼んでいる。 つまり抑うつ傾向とは、否定的側面の高い認知量のことである。否定的自己複雑性が高ければ抑うつ傾向が強い、という結果はある意味当然なのかもしれない。

 肯定的な自己複雑性と否定的な自己複雑性は異なる働きをしているというWoolfolk et al.(1995)の結果を、さらに裏付けるような研究報告が近年多数なされている。
 例えば、Gara, Woolfolk, Cohen, Goldston, et al. (1999)は、抑うつ患者は、最初のうつの程度や自己評価や心の安らぎの状態を統計的に取り除いたとしても、Negativeな複雑性が独自に次のうつの程度と関連をもっていることを示した。否定的自己表象の高い複雑性が、うつを引き起こす主要なエピソードからの回復度の低さと結び付けられることが示された。
 佐藤(1999)の研究では、抑うつが低いグループは肯定的自己複雑性が高いこと、そして、肯定的自己複雑性が高い人は陰性情緒反応が高いことを見出された(陽性情緒反応では差がなかった)。肯定的自己複雑性が否定的な感情を緩和していると佐藤は主張している。
 このようにWoolfolk et al.(1995)以降、自己認知の複雑性は、肯定的な自己の複雑性と否定的な自己の複雑性とではその働きが大きく異なっていることが示唆され、今後も複雑性を測定する際には、両者の区別が必要だという考えが一般的になってきている。


5.3. 実証できなかった例

 だが一方で、 Linville(1985,1987)やWoolfolk et al.(1995)のモデルに基づいて立てた仮説が実証できなかったという報告もある。
  Stroot(1999)は、肯定的自己複雑性、否定的自己複雑性、全体的自己複雑性のいずれも、正・負両方のライフイベントへの情緒的反応を緩衝しなかったと報告している。
  またそれとは逆に、Jordan & Cole(1996)は、 全体的自己複雑性と抑うつとの関連を見出したが、肯定的自己複雑性も否定的自己複雑性も、基本的働きは全体の複雑性と変わらなかったという結果も報告されている。


5.4. 自己複雑性研究結果の不一致について

 以上述べてきた通り、Linvilleの提唱した自己複雑性は、追加的研究によっていくつかのアイデンティティスタイルとの関連性を見出してきた。しかし、その結果は安定しておらず、仮説が実証されたという報告や、あるいは実証できなかったとう報告が入り交じっているのが現状である。さらに、肯定的自己複雑性と否定的自己複雑性という新たな概念が提唱されたが、その2つの機能性についての結果も一致していない。抑うつ感情には肯定的自己複雑性のみが作用したという報告(例、佐藤 1999)や、逆に否定的自己複雑性のみが作用したという報告(例、Woolfolk et al. 1995)がある。このように自己複雑性の結果が不揃いなために、その本来の働きがどのようなものが、まだ明確にわかっていないのである。



6. 問題点

6.1. noグループについて

 ところで、指標Hの算出に関して特筆することがある。先にも触れたが、情報理論に基づくこのHの計算式
    H = log2n - ( Σ ni log2 ni) / n
       n :特性語の総数
       ni:グループの組み合わせの各パターンに該当する特性語の数

において、各組み合わせパターンの特性語の総和は特性語の総数、つまり n = Σ ni である。したがって、どの側面においても使われなかった特性語もni の組み合わせカテゴリーに含まれる必要があり、そのため「noグループ」が存在する。
 自己認知の複雑性を算出するにあたり、認知パターンのカテゴリーであるnoグループ内に特性語が存在することは、それら使用されなかった特性語も認知のパターン役割を担っている。したがって、使用しなかった特性語を自分に当てはまらない特性語であると認知していることを意味する。認知された側面で用いられている他の特性語とこの使用されなかた特性語が、同類の認知パターンとして扱われているのだ。しかし、はたして自分自身に当てはまらないと「認知している」と、どうして断言できるのであろうか。予備実験によって選定されたとは言え、被験者に提示される特性語は完全には自分の特性を表し得ない。
 複雑性の測定に限らず、実験者が心理学の調査に用いる形容詞リストを選定する場合には、被験者に呈示される項目数が制限される、研究者の意図によって恣意的に項目が選択されかねない、被験者は受け身な反応をするだけで、重要な自己の側面が出る保証がない、という問題点があることは、岩熊・槙田(1991)によっても指摘されている。
 先行研究のいくつかにおいて、自己複雑性の働きが仮説通りに実証できなかった理由の一つとして、これら特性語の妥当性が不十分であったことが考えられる。
抑うつなどの否定的感情と関連があったのがPositiveな自己複雑性であったりNegativeな自己複雑性であったりと、結果が一致していない原因もこの点に帰することができるのではないか。


6.2. 指標Hと使用特性数の関係

 また、林ら(1995)による自己複雑性の研究では、指標Hと使用特性語数との間にr=.96という高い相関係数が報告されている。
 これではCrockett(1965)の認知的複雑性の指標とさほど変わらない。
Crockett(1965)は、何人かの役割人物(例えば、好きな男性、嫌いな男性、好きな女性、嫌いな女性)を記述するのに使用した形容詞特性語数をそのまま認知的複雑性の指標としたが、これに対して坂元(1988;p.489-490)は以下のように指摘している。
Crockettの分化性の指標の最大の問題点は、役割人物の記述に用いる形容詞という言語的ラベルが、完全にコンストラクトと同一だとしている点である。コンストラクトは、言語によって表現され得ないものかもしれない。形容詞は、コンストラクト自身ではなく、それに付されたラベルにすぎない。だから、同じコンストラクトに多くの形容詞のラベルを付すために、多くのコンストラクトを持っていなくとも役割人物の多くを形容詞で記述することができ、その結果、Crockettの指標では分化性が高いと判断される場合もあるだろう。

坂元(1988)の指摘と同じように、研究者によってリストアップされた形容詞を用いて複雑性を算出する場合、自分への適合度がさほど高くなくとも、被験者はその形容詞を選択することが可能である。多くのコンストラクトをもっていない被験者でも、目の前にある形容詞を用いて、自己を多様に表象することはできるだろう。
 Linville(1985,1987)が本来言うところの自己複雑性とは、側面の数と独立程度との複合である。単なる特性語の数、多様性ではないことを再び強調する。


6.3. 真の人格特性と暗黙の人格

 Woolfolk et al.(1995)や林・堀内(1997)は複雑性測定に用いる形容詞リストを、Big Fiveに準じて作成した。しかしこの5因子は、真の「人格特性次元」を代表しているのかという問題も持ち合わせている。
Passini & Norman(1966)の結果では、被験者にとって未知の人物を評定させた場合でも5因子が抽出された。このことから、この5因子は評定対象に見られる「特性の次元」というよりも、評定者が対人認知に際して「暗黙理にもっている認知の枠組み」あるいは「暗黙の人格理論」(inplict personality theory)を代表しているのではないかと考えられる
暗黙の性格理論の研究においては、社会的望ましさ(social desiability)など、5因子モデルとは異なる次元も示されている(e.g.,林, 1978;Rosenberg, Nelson, & Vivekananthan,1968)。
したがって、Big Fiveに準じて作成された形容詞リストは真の特性を表現しているという根拠が不十分であり、複雑性測定に用いることが適切と言い難い部分がある


6.4. 臨床との関係

 元来、Kelly(1955)が作成した認知的複雑性の元となっている役割構成体領域テスト(Role Constract Repartory Test : Rep test)の原版では、コンストラクトを被験者自身に書かせる方法を採っていた。Kellyがあえてこの方法を用いたのは、これが各人のコンストラクト体系について、臨床的に有用な情報を提供するものと考えたからであった。ところが、Bieriたち(1966)によって開発された修正版では、コンストラクトは研究者によって予め準備されたのであった。
 物質的な豊かさが実り、現代は精神的な豊かさが求められている時代である。臨床分野の活躍は大いに期待されているし、その他の学問分野が積極的に協力し合うことが、これからは大切である。自己複雑性測定についても、この情報は十分に臨床的に有益である。世論調査の様な単なる実態調査で終えるのではなく、個人個人のコントラスト体系を臨床的に見ることが必要であろう。Kelly(1955)の複雑性の意図を現在に生かすためにも、複雑性測定の特性抽出は被験者自身の記述から試みたい。


6.5. その他形容詞リストを用いることの限界

 山口・久野(1994)が指摘しているように、認知的複雑性において形容詞で評定可能な側面は領域が限定されている(理論には適用の限界がある)ことや、認知的複雑性の研究では、認知次元の重みづけには個人差があること(e.g., 林, 1979;Schneider, 1973;山口, 1993)を考慮しても、被験者の認知構造をア・プリオリに仮定するのは望ましくなく、より広い領域が対象とできる自由記述からの特性抽出が適していることが言えるだろう。
 これらの理由から、複雑性の指標算出に用いる特性語全ては、必ず被験者にとって認知されていると断言できること、そして認知の側面を自由に表象できる方法を用いることの必要性を提唱する。そして単なるコンストラクトの数を表す指標から、側面間の数と独立程度の混合体としての指標への転換を目指す。
そのために、本調査では、直接被験者自身があげた特性語を使用して自己複雑性を算出することを試みる。



7. TSTについて

 自己概念の具体的な内容についてその概略を調べるために、TST(Twenty Statements Test:20答法)と呼ばれる手法がある。「私は…」という一人称代名詞に続いて、20の文を作成する方法である。
 who am I? という問いに対して、被験者が自分自身で答える形式が一般的に使用されているので、このTSTは「Who am I Test(WAI)」としても知られている。Khun & McPartland(1954)によって開発されたこのTSTは、星野(1958)や、古沢・星野(1962)によって日本に紹介されている。今日に至るまで日本国内でのTSTが発展してきた様子は、星野(2000)によってまとめられている。
 WAIの他にも、Bugental & Zelen(1950)による「あなたは誰ですか?(Who are you?)」という問に対する回答を求めるWAY技法や、 McGuireを中心としたグループに(e.g., McGuire & McGuire,1981;McGuire, McGuire & Winton,1979;McGuire & Padawer-Singer,1976)よって考案された“Tell Us about Yourself”テスト(「私たちにあなた自身のことについて教えてください(Tell Us about Yourself.)」という教示を与えて5分間で口頭で答えさせるか、あるいは7分間筆記で答えさせる)などがある。
 TSTは自由回答法なので、被験者は自分自身を自分自身の言葉で自由に表現することができる(岩熊・槇田,1991)。また、個人が置かれた状況や関心、個人が特に注目している自己概念の領域、個人が自ら持っていると認知している特性、さらにその認知する特性を持つことへの評価や態度など、個性記述的なデータを得ることができる(田辺・正保,1997)。
 また、完全な自由記述と異なり、20の短文という制約を与えているため、表れる反応はある程度定式化されたデータが得られる。各反応のカテゴリー化により、数量化や系列の分析、記述領域の偏りなどの分析が可能となる。
 このようなTSTの、自己の認知的特性を正確に抽出できる性質や、数量化可能な性質を生かして、自己複雑性算出に使用するとこを提案する。
 本研究は、できる限り被験者の真の特性を抽出することを目的とするので、被験者の防衛反応や、他人によく見せようとする構えを抑える必要がある。 WAY技法や“Tell Us about Yourself”テストが、「You」や「Us」という表現から被験者に自分以外の第三者(調査者の存在)を感じさせるのに対して、WAI技法は自分(I)の存在のみを暗示させるので、純粋な自己認知を測定する研究の場合はWAI技法が適していると思われる。



8. 肯定的特性語・否定的特性語の総数について

 Woolfolk et al.(1995)が主張するような肯定的自己複雑性と否定的自己複雑性をそれぞれ算出するためには、TSTで抽出された20の特性語が、肯定・否定の意味付けをされる必要がある。
 しかし、20の認知された自己記述のうち、肯定語や否定語の数は被験者によって様々である。総特性語数が被験者間で異なったままに、 Woolfolk et al. (1995)の方法で複雑性を算出したなら、統制がとれずに結果が不安定になる恐れもある。 (実際、大阪大学人間科学部自己複雑性研究会(2000;未公刊)で自由記述法による自己複雑性の測定を試みたが、肯定語・否定語の総数にばらつきが大きく、肯定的・否定的な側面の自己複雑性の指標それぞれの妥当性が疑わしくなった。
 例えば、肯定的な意味の特性語が20個ある被験者が、全部の特性語をたった一つの側面のみに含ませた場合、その被験者の肯定的自己複雑性の指標H(P)=0となる。 また、別の被験者では20の全特性語のうちの肯定語が1個であった時、他の特性語がどのように分化していようとも、この被験者も同じく肯定的自己複雑性の指標H(P)=0である。
 前者は特性の未分化が極端に確認できるが、1つしか特性語がなく分化の仕様がない後者の場合も同程度の未分化として扱うことに疑問を感じる。

 そこで本調査では、自由記述式なTSTを用いて自己複雑性を算出することを目的にすると同時に、肯定的自己複雑性と否定的自己複雑性を算出する際、従来のWoolfolk et al. (1995)の方法による指標と、本調査オリジナルな試みである、計算上特性語総数を統一して算出する指標の二つを用いて、その差の検討をも試みる。





第2章 調査編


9. 目的

 自己複雑性測定の結果が一致していない原因を、形容詞リストによる特性語選定に還元した。すなわち、被験者にとって認知されていない特性語までもが、認知の反応パターンの一つとして他の特性語と同等に扱われていることが、先行研究の結果を微妙に狂わせていたのだと考えた。
 これまで形容詞リストの選択で測られてきた複雑性の指標であるが、本調査では新しい測定法として、TST(20答法;WAI)を用いることを提唱する。
 TSTを元に算出した複雑性の指標では、Linville(1985、1987)のモデルに基づく尺度間の関係が実証されやすいと仮説立てられる。例えば、 Linville(1985、1987)の基本モデルである「自己の認知的表象が複雑に分化している人は、情緒や自己評価の極端に大きな揺れが緩和される」という仮説から、否定的情緒反応や自己評価(自尊感情)といった尺度と複雑性との関係が、本調査からも見出せられるであろう。
 複雑性の働きはPositive/Negativeの側面で異なるという多数の報告から、本調査でも両者の独自性を仮定し、Positiveな複雑性とNegativeな複雑性を独立させて取り扱う。
 したがって、本調査では以下の仮説をもとに進められた。
仮説1 否定的情緒反応が強い被験者は、肯定的自己複雑性が低く、否定的自己複雑性が高い。
仮説2 自尊感情が低い被験者は、肯定的自己複雑性が低く、否定的自己複雑性が高い。
 Linville(1987)は、ストレスに関係した身体的健康と複雑性の関連性も示しており、したがって次の仮説も立てられる。
仮説3 情緒の面に限らず、ある否定的な反応(ストレス反応)が強い被験者は否定的自己複雑性が高い。
 また、経験的仮説としてPositive/Negativeの各特性数が不揃いなまま各複雑性を算出した場合、その妥当性が著しく下がるのではないかと考えられる。よって、
仮説4 肯定的自己複雑性あるいは否定的自己複雑性の指標を算出する際、各評価側面の特性総数が不揃いな場合より、数を統一した指標の方が、情緒反応や自尊感情などの評定尺度との関係が顕著である。



10. 方法

被験者
近畿地区並びに関東地区と四国の専門学校生・大学生・大学院生(男子73名、女子77名、平均年齢21.39歳、SD 1.45)の計150名。全回答者の中で、大阪大学生が占める割合は62%であった 。
調査時期
2000年11月・12月。
手続き
A4サイズ裏表4頁の調査用紙を被験者に配付し、後日回収した。第3者に配布・回収を協力してもらった際には、被験者のプライバシーを保護するため、調査用紙は一つひとつ封筒に入れて配布・回収を行った。プライバシーを保護することで、記述内容が建前的・表面的なものになるのを防ぐことも目的の一つである。また、「いい加減な反応」によって自己複雑性が大きく左右される恐れがあるので、できるだけ静かな所でじっくりと取り組んでもらうよう、被験者に告げた。

1質問用紙の記入
(1)特性語の抽出
被験者自身にとって「認知された」特性語を抽出するために、TSTを行った。
教示:
「Who am I ?(私は誰でしょう。どんな人でしょう。)」という問いに対し、あなたのことについて、20通りの異なる答えを下の空欄に1番から順に書いていってください。思いつくままに、自由に書いていってください。あなたのプライバシーは守られます。
できるだけ、20個全部埋めるようにしてください。
1度書いた文章を消す時は、消しゴムを使わずに、鉛筆で文字の上に二重線を引くだけでかまいません。

(2)Positive/Negativeの選定
Woolfolk et al.(1995)の指摘するようなPositiveな自己複雑性とNegativeな自己複雑性を算出するために、TSTであげられた特性語を、被験者自身の意味づけでPositiveかNegativeかに分別するよう指示を出した。どうしてもどちらにも分別できない特性語の存在を認めつつ、しかしできる限りPositiveかNegativeのどちらかを選ぶように指示を出した。

(3)特性語のグループ分け
TSTであげられた20の特性語を、被験者自身の意味付けによってグループ分けするよう、そして、それらの各グループに名前を付けるように指示を出した。教示はLinville(1987) を参考にした。グループ分けについての例は示したが、グループ名は例に出さなかった。被験者自身が認知している側面を表出すべき所に、バイアスがかかるのを避けるためである。グループに分類する枠は用紙サイズのとのバランスにより、8個用意した。
教示:
先ほど記入いただいた20通りの回答の中で、一緒にまとめられるものをグループにしてもらいます。それぞれのグループが、あなたの側面やあなたの生活を表すようにまとめてください。どのような意味に基づいて分類してくださっても構いませんが、作業中はあなた自身の事を考えることを覚えておいてください。例のように、四角の枠内にまとめられた番号を記入してください。同じ番号をいくつものグループで使用しても構いません。
グループの数は自由です。もうこれ以上のグループを作るのが難しいと感じましたら、おやめくださって結構です。グループを記入する枠が足りない方は、申し訳ありませんが、余白にお書きください。
四角の中に分類が完了しましたら、それぞれのグループに名前をつけてください。グループの名前は( )の中にお書きください。

(4)自己複雑性と関連が予想される尺度の評定
Linville(1985)の仮説に基づいて、情緒と自己評価が、自己複雑性に関連があると仮説だてられる。
否定的な情緒の揺れを測定する指標として、尾関(1993)のストレス反応尺度を用いた。この尺度は、大学生用ストレス自己評価尺度(Stress Self-Rating Scale: 尾関、1993)内に含まれた尺度である。
情緒的側面15項目(抑うつ、不安、怒り)、認知・行動的側面10項目(情緒的混乱、引きこもり)、身体的側面10項目(身体的疲労感、自律神経系の活動性亢進)の7下位尺度からなり、最近1週間の自覚的な心身の状態について4段階評価を求める。
Linville(1987)は自己複雑性と身体的健康との間にも関連性を見出しており、本尺度も身体的側面との関連が、情緒面に加えて予測される。
肯定的な自己評価を測定する指標として、 Rosenberg(1965)の自尊感情(Self-Esteem)尺度を用いた。4段階評価を求めた。

(5) 指標Hの算出
被験者ごとに、得られたデータから自己複雑性の指標Hを算出した。計算式は先述の式(1)による。
また、肯定的自己複雑性・否定的自己複雑性の指標については、特性語総数不揃いの問題を考察するために二種類の算出方法による分析を行った
[分析その1 〜Woolfolkら法〜]では、Woolfolk et al.(1995)が用いた算出をそのまま当てはめ、肯定的(もしくは否定的)自己複雑性を算出する際には、組み合わせカテゴリーから肯定語(もしくは否定語)以外の特性語を全て削除して計算した。各被験者ごとに肯定的(もしくは否定的)特性語の総数は異なり、その数はTSTであげた肯定項目(もしくは否定項目)の数である。
[分析その2 〜mukai法〜]では、計算上で特性語総数を20個に統一するために、肯定語(もしくは否定語)以外の特性語を、肯定語(もしくは否定語)の組み合わせカテゴリーの中の「noグループ」に含んで複雑性を算出した。

例えば、20の特性記述のうち肯定語が10個、否定語が10個、側面がABCの3つで、それぞれの組み合わせカテゴリーに含まれた特性数が、
「Aのみ」カテゴリーにはPositive(以下P)=4/Negative(以下N)=2の計6個、「Bのみ」にはP=3/N=3の計6個、「Cのみ」にはP=0/N=3の計3個、「AかつB」にはP=1/N=1の計2個、「AかつC」P=0/N=1の計1個、「CかつB」P=0/N=0の計0個、「AかつBかつC」P=0/N=0の計0個、「noグループ」P=2/N=0の計2個
に分類できた被験者のケースを想定する。
この被験者について肯定的自己複雑性 SC(P)を算出する場合、
「否定語を全て除いて算出する」というWoolfolk et al.(1995)の方法をそのまま用いた場合、すなわち[分析その1 〜Woolfolkら法〜]による算出法は、以下の計算式で表される。

SC(Pw) =  log210 - (log24 + log23 + log20 + log21 + log20 + log20 + log20 + log22) / 10


そして[分析その2 〜mukai法〜]による特性語総数を20個に統一した方法、つまり否定語をnoグループに移す算法では、以下の計算式になる。

SC(Pm) =  log220 - (log24 + log23 + log20 + log21 + log20 + log20 + log20 + log212) / 20


このSC(Pw)SC(Pm)と同様にして、否定的自己複雑性も、SC(Nw)SC(Nm)の2種類を算出した。



11. 結果

11.1. ストレス反応尺度及び自尊感情尺度項目分析

尾関(1993)のストレス反応尺度35項目において因子分析(主因子法、ヴァリマックス回転)を行った結果、3つの因子が抽出された。固有値が0.3に満たない項目と、2つ以上の因子にまたがって0.3以上の固有値を持つ項目の計8項目(9.憤まんがつのる。15.いらいらする。21.自分の殻に閉じこもる。24.何も手につかない。25.人が信じられない。26.体が疲れやすい。30.脱力感がある。32.動作が鈍い。)を除き、再び因子分析を行った結果を表1に表す。
第1因子は、情緒的側面を表す12項目(固有値9.96 寄与率28.5)
第2因子は、認知・行動的側面を表す8項目(固有値2.48 寄与率7.1)
第3因子は、身体的側面を表す7項目(固有値2.02 寄与率 5.8)
と分類された。
よって本調査ではこの3つの下位尺度を用いて分析を行った。

自尊感情尺度は一因子構造と解釈されたので、得点の合計を「自尊感情得点」とした。


表1:ストレス反応尺度の因子分析結果
項目因子負荷量
情緒的側面のストレス反応
01. 悲しい気持ちだ。.758
10.心が暗い。.725
13.気分が落ち込み、沈む。.722
04.泣きたい気分だ。.704
03.不機嫌で、怒りっぽい。.695
07.さみしい気持ちだ。.667
02.重苦しい圧迫感を感じる。.609
05.不安を感じる。.582
12.不愉快な気分だ。.539
23.生きているのがいやだ。.447
06.怒りを感じる。.418
14.気がかりである。.354
認知・行動的側面のストレス反応
18.話しや行動にまとまりりがない。.676
22.行動に落ち着きがない。.626
20.根気がない。.604
17.他人に会うのがいやでわずらわしく感じられる。.601
19.話すことがいやでわずらわしく感じられる。.541
08.びくびくしている。.491
11.恐怖感をいだく。.481
16.頭の回転が鈍く、考えがまとまらない。.329
身体的側面のストレス反応
27.呼吸が苦しくなる。.837
29.動悸がする。.762
33.胸部がしめつけられる気がする。.668
34.頭が重い。.653
28.体がだるい。.538
31.吐き気がする。.502
35.耳鳴りがする。.409
固有値9.962.482.02
寄与率28.5%7.1%5.8%



11.2. 尺度間相関

ストレス反応尺度の3つの下位尺度と自尊感情尺度とのそれぞれの間には、弱〜中程度の有意な相関関係(r=-.25〜.44; p<.01)が見られた(表2)。よって、これら4つの尺度は互いに関連はあるがある程度独立した尺度であると見なしうる。

表2:尺度間の相関関係
情緒的ストレス反応認知・行動的ストレス反応身体的ストレス反応
認知・行動的ストレス反応.38***
身体的ストレス反応.44***.36***
自尊感情-.37*** -.43*** -.25**
***p<.001 **p<.01


11.3. 信頼性

Cronbachの α係数を算出したところ、ストレス反応尺度でα=.92、自尊感情尺度でα=.74であった。 自尊感情尺度の信頼性係数が若干低めだとも感じられるが、分析するに必要最小限の信頼性は満たしていると判断された。
また、因子分析で抽出されたストレス反応尺度の下位尺度においては、第1因子ではα=.89、第2因子ではα=.77、第3因子ではα=.82であり、問題はないと判断された。


11.4. 各得点の平均

調査結果として得られた被験者の反応を、各平均値を中心にしてみていく(表3参照)。
それぞれ肯定的、否定的、中立的な意味合いを持ってた20個のTST回答のうち、被験者は平均して19個足らずの回答を使って、およそ4から5個のグループに分類した。特性の中でグループ作成に使用されたのは、肯定語は約10個、否定語は5〜6個であった。
それらに基づいて算出された自己複雑性の指標Hは2.16、肯定的自己複雑性はP1・P2両者約1.70、否定的自己複雑性はN1が約1.10、N2が約1.30であった。
被験者は否定特性より肯定特性を多くあげており、肯定語の数はおよそ否定語の2倍である。
「人は自分が望ましいと思っている自己の特性(側面)に注意が向きやすい」という久保(1998)の報告通り、本実験でも被験者が肯定的な側面を多く認知していることが確認できた。


11.5. 性差

自己認知の複雑性に関する指標として、自己複雑性、側面数、使用特性数、肯定的自己複雑性、否定的自己複雑性について、被験者の性別による平均点の差(t-検定)を比較検討した(表3)。 肯定的な項目の使用数において5%水準で有意な差があり、男性(M=11.07、SD=5.13)は女性(M=9.26、SD=4.27)に比べて肯定項目を多く用いたことがわかった(t=2.35, df=148, p=.02)。 しかし使用肯定項目数に性差はあるものの、肯定的自己複雑性に有意な差は見られなかった(p1:t=-.17, df=146, p>.10、p2: t=.50, df=148, p>.10)。
この原因として、女性(M=4.87、SD=2.91)は男性(M=4.19、SD=1.38)に比べて認知側面数が多い傾向(t=-1.81, df=148, p<0.10)があったことが考えられる。 指標Hの特徴上、側面数が多くなれば複雑性は高くなる(Attneave 1959)。したがって、女性は男性より認知上Positiveな特性をあまりもっていなくても、少数ながらもそれらを男性より分化させているので、複雑性の高さはさほど変わらないのであろうと考えられる。
男女別に各指標の相関を見ると(表4)、女性(r=.81)の方が、男性(r=.28)より側面数とSCの相関が強いこと、また、女性(r=.60〜.63)の方が、男性(r=.12)より側面数とSC(Pw)やSC(Pm)の相関が強いことがわかった。 つまり、使用される項目数のみならず、側面数も、自己複雑性の指標に影響を与えていることが確認された。
単なる特性の数ではなく、認知される特性と側面数の双方に影響されているということから、本調査の指標は、本来Linville(1985、1987)が複雑性として定義した「側面の数とその独立度」を表現しているといえるだろう。

表3:複雑性に関する得点ならびに男女差
男性
n=73
女性
n=77
全体
n=150
側面数4.19 (1.38)4.87 (2.91)+4.54
使用特性数18.71 (2.35)18.40 (2.46)18.55 (2.40)
使用肯定特性数11.07 (5.13)9.26 (4.27)*10.14 (4.78)
使用否定特性数5.01 (3.48)5.77 (3.52)5.40 (3.51)
自己複雑性 SC2.09 (0.61)2.24 (0.51)2.16 (0.56)
肯定的自己複雑性 SC(Pw)1.66 (0.73)1.68 (0.85)1.68 (0.68)
否定的自己複雑性 SC(Nw)1.18 (0.79)1.17 (0.75)1.29 (0.71)
肯定的自己複雑性 SC(Pm)1.72 (0.71)1.66 (0.60)1.69 (0.65)
否定的自己複雑性 SC(Nm)1.06 (0.65)1.11 (0.56)1.08 (0.61)
カッコ内は標準偏差
*p<.05 +p<.10

表4:男女別相関
側面数使用総特性数使用肯定特性数(P)使用否定特性数(N)SCSC(Pw)SC(Nw)SC(Pm)SC(Nm)
側面数 .27*.14.09.28*.63***.19.60***.14
使用総特性数.22 .37***-.01-.03-.04-.26*.32**-.11
使用肯定特性数(P).04.44*** -.71***.06.38***-.50***.67***-.61***
使用否定特性数(N)-.09-.11-.56*** -.11-.10.71***-.37**.89***
SC.81***-.09-.16.29* .70***.42***.44***.33**
SC(Pw).12.13.49***-.38***.61*** .06.86***-.06
SC(Nw)-.04-.12-.36***.50***-.12.07-.28*.81***
SC(Pm).12.36***.86***-.47***.36***.78***-.12-.31**
SC(Nm)-.08-.00-.52***.87***.25*-.22.78***-.36***
上段:男性
下段:女性
***p<.001 **p<.01 *p<.05

なお、女性が男性よりも肯定的特性後の使用数が少ないというこの結果は、女性は男性と比べて自分の成績や能力を低く見積もる傾向があるという研究結果(Carr et al., 1985;Daubman et al.,1992;Elliot & Harackiewicz, 1994)に一致している。 またNotaious, C. I. & Johnson, J.S.,(1982)は、夫の自己開示と比べて妻の自己開示は内容的に否定的なものが多いこと、夫は妻の否定的な内容を含む自己開示に対して心理的抵抗を示すことが生理学的指標から明らかであることも見出している。
このような男女差の理由として、性役割観に基づく認知・行動の差が考えられている。実際、Beyer &Bawden(1997)の調査結果では、女子の能力の自己認知が男性よりも不正確で低い方向に歪むという傾向は、男性性課題(フットボール、野球など男性に人気のあるスポーツについての問題)においてのみ見られ、女性性課題(メロドラマなど女性に人気があると思われる番組についての問題)や中性性課題(地理やごく一般的な問題)で性差は見られなかった。 性役割観に基づいて、女性は自己認知を否定的な方向に歪めていると言える。
本研究で見られた性差も、性役割観から女性が自己認知を否定的あるいは中性的な方向に歪めたために肯定的な認知が的側面が減ったものではないかと考えられる。


11.6. 肯定的/否定的自己複雑性と使用特性数との関係

まずはじめに、使用総特性数とSCとの間の相関関係を調べた。積率相関係数の値はr=-.07であり、両者の相関関係は確認されなかった。 Woolfolk et al.(1995)はr=.95、林・堀内(1997)はr=.96という非常に高度の相関関係が得られていた結果と大きく異なっている。
TSTによる自己複雑性の測定は、これまでの形容詞リストによる測定と本質が異なるものであると示された。単なる特性数を測定する指標からの脱退という本調査の目的が果たされた結果といえる。
また、Positive/Negativeそれぞれの面から使用特性数と複雑性との関連を見ると、使用肯定特性数とSC(Pw)との相関はr=.40、SC(Pm)との相関はr=.74であり、 また使用否定特性数とSC(Nw)との相関はr=.49、SC(Nm)との相関はr=.88であった。 特性語総数を統一して算出した指標 SC(Pm・Nm)の方が、肯定的・否定的どちらも使用特性数との相関は高かった。
しかしそれでもWoolfolk et al. (1995)や林ら(1997)の相関よりは弱い値であった。 Positive/Negativeそれぞれの複雑性においても、これらの指標は単なる使用特性数を測定したものではないと言える。

表5:複雑性に関する各得点の相関関係
側面数使用特性数重要特性数使用肯定特性数使用否定特性数SCSC(Pw)SC(Nw)SC(Pm)
使用特性数.21***
重要特性数.01.11
使用肯定特性数.04 .41***.33***
使用否定特性数-.02 -.06 -.14-.22
SC.43***-.07.03-.09.16
SC(Pw).26***.04.17*.42***-.22** .04
SC(Nw).02.02 -.17*-.43***.60*** -.19* .07
SC(Pm).26*** .26** .31*** .74***-.42*** .34*** .82*** -.20*
SC(Nm).00-.00-.17*-.57***.88***-.06-.13 .80***-.36***
***p<.001 **p<.01 *p<.05


11.7. 肯定的/否定的自己複雑性とストレス反応との関係

■情緒的ストレス反応得点
 ストレス反応尺度の第1因子である、情緒的ストレス反応得点の下位30%と上位30%で被験者を分け、それぞれを情緒的ストレス反応低群(n=50)、高群(n=48)とした。
この高群・低群で、SC、oolfolkら法によるSC(Pw)・SC(Nw)、およびmukai法によるSC(Pm)・SC(Nm)の平均点の差をそれぞれ比較した(表6)。
Woolfolk et al.(1995)や、佐藤(1999)の結果と同じく、SCに群間で差はなかった(t=-.20, df=96, p>.10)。
 しかし、Woolfolk et al.(1995)は否定的自己複雑性の高さと抑うつの高さの関連性を見い出し、また佐藤(1999)は肯定的自己複雑性の低さと抑うつの高さの関連性を見い出したのに対して、本調査の結果では、抑うつ傾向の尺度を含んだ情緒的ストレス反応の高群と低群の間に、SC(Pw)(t=.97, df=94, p>.10)とSC(Nw)(t=-1.70, df=92, p<.10)においても、5%水準で有意な差は見られなかった。 この結果において、SC(Pw)、SC(Nw)ともに、複雑性の指標としての妥当性が疑われた。
 一方、計算上の総特性数を20に統一したSC(Pm)・SC(Nm)では、両者とも情緒ストレス反応の得点群間において有意な差がみられた。SC(Pm)は、低群(M=1.83、SD=0.60)よりも高群(M=1.49、SD=0.63)で有意に低かった(t=2.74, df=96, p<.01)。 また、SC(Nm)は、低群(M=0.94、SD=0.59)よりも高群(M=1.27、SD=0.68)で有意に高かった(t=-2,60, df=96, p<.05)。
すなわち、肯定的自己複雑性が高い方が情緒的なストレスを感じにくく、また逆に否定的自己複雑性が高い方が情緒的ストレスを感じやすいという、仮説通りの結果が確認できた。

表6:情緒ストレス反応得点低群・高群での平均値と標準偏差
情緒的ストレス反応
低群 (n=50)
情緒的ストレス反応
高群 (n=48)
側面数4.26 (1.37)4.69 (3.21)
使用項目数18.66 (2.18)18.73 (2.06)
使用肯定項目数12.10 (4.67)8.96 (4.98)**
使用否定項目数4.42 (3.25)6.81 (3.98)***
SC2.11 (0.48)2.14 (0.59)
SC(Pw)1.71 (0.68)1.58 (0.63)
SC(Nw)1.02 (0.81)1.31 (0.81)+
SC(Pm)1.83 (0.60)1.49 (0.63)**
SC(Nm)0.94 (0.59)1.27 (0.68)*
カッコ内は標準偏差
***p<.001 **p<.01 *p<.05 +p<.10

■認知・行動的ストレス反応得点
 認知・行動面でのストレス反応尺度においても先ほどと同様に得点の下位30%と上位30%で低群・高群に分類し、SC、Woolfolkら法によるSC(Pw)・SC(Nw)、およびmukai法によるSC(Pm)・SC(Nm)の平均点の差をそれぞれ比較した(表7)。
 SCは、ここでも有意な差は見られなかった(t=-1.23, df=92, p>.10)。
 C(Pw)も、認知・行動的ストレス反応高低群間で差はなかった(t=.83, df=90, p>.10)が、SC(Nw)においては、低群(M=0.95、SD=0.74)よりも高群(M=1.31、SD=0.86)が5%水準で有意に高かった。(t=-2.15, df=88, p<.05)
 一方、mukai法によるSC(Pm)・SC(Nm)では、SC(Pw)・SC(Nw)よりも確かな低い水準で有意差が見られた。 SC(Pm)は10%水準ではあるが、高群(M=1.57、SD=0.77)と低群(M=1.80、SD=0.57)の間で有意な傾向の差が見られた(t=1.67, df=86.45, p<.10)。
SC(Nm)については、低群(M=0.89、SD=059)よりも高群(M=1.26、SD=0.67)の方が、1%水準で有意に値が高かった(t=-2.84, df=92, p<.01)。

表7:認知・行動ストレス反応低群・高群での平均値と標準偏差
認知・行動的ストレス反応
低群 (n=46)
認知・行動的ストレス反応
高群 (n=48)
側面数4.33 (1.33)5.13 (3.54)
使用項目数18.91 (1.98)18.58 (2.40)
使用肯定項目数12.15 (4.63)8.81 (5.05)***
使用否定項目数4.33 (3.13)6.83 (4.00)***
SC2.10 (0.61)2.24 (0.56)
SC(Pw)1.73 (0.56)1.61 (0.79)
SC(Nw)0.95 (0.74)1.31 (0.86)*
SC(Pm)1.80 (0.57)1.57 (0.77)+
SC(Nm)0.89 (0.59)1.26 (0.67)**
カッコ内は標準偏差
***p<.001 **p<.01 *p<.05 +p<.10

■身体的ストレス反応得点
 ストレス反応尺度の第3下位因子である身体面でのストレス反応も同様に、下位と上位30%ずつを抽出し、それぞれを身体面ストレス反応低群・高群とした(表10)。
 ここでもSCによる差はなく(t=-.63, df=128, p>.05)、また、情緒的ストレス反応と同じく、SC(Pw)にも(t=.89, df=127, p>.10)、SC(Nw)にも(t=-1.16, df=124, p>.10)有意な差はなかった。
 しかし一方SC(Nm)では有意な差が見られ、低群(M=0.92、SD=0.53)より高群(M=1.16、SD=0.60)が身体的ストレス反応が高かった(t=-2.37, df=128, p<.05)。

表10:身体ストレス反応低群・高群での平均値と標準偏差
身体的ストレス反応
低群 (n=60)
身体的ストレス反応
高群 (n=70)
側面数4.27 (1.29)4.86 (3.04)
使用項目数18.57 (2.59)18.73 (2.19)
使用肯定項目数11.28 (4.73)9.31 (4.41)*
使用否定項目数4.63 (3.23)5.84 (3.45)*
SC2.12 (0.48)2.18 (0.56)
SC(Pw)1.72 (0.62)1.62 (0.78)
SC(Nw)1.03 (0.72)1.18 (0.78)
SC(Pm)1.78 (0.59)1.65 (0.64)
SC(Nm)0.92 (0.53)1.16 (0.60)*
カッコ内は標準偏差
*p<.05


11.8. 肯定的/否定的自己複雑性と自尊感情との関係

■自尊感情得点
 Rosenberg(1965)の自尊感情得点の下位30%と上位30%の被験者を、それぞれ自尊感情低群・高群として、SC、SC(Pw・Nw)、SC(Pm・Nm)の平均の差の検定を行った(表11)。
 ここにおいてもSCは群間で差が見られなかった(t=-.59, df=103, p>.10)。
 oolfolkら法による指標では、SC(Pw)においてかろうじて10%水準(t=-1.60, df=100)の有意な差の傾向が見られた(低群:M=1.55,SD=0.73、高群:M=1.76, SD=0.61)が、しかしSC(Nw)は群間で有意な差は見られなかった(t=.71, df=91, p>.10)。
 一方mukai法による指標では、SC(Pm)は5%水準(t=-2.01, df=103, p<.05)、SC(Nm)は、0.1%水準(t=3.41, df=103, p<.001)で群間における有意な差がみられた。 すなわち、mukai法において、肯定的自己複雑性が高い方が自尊感情(肯定的感情)が高く、また逆に否定的自己複雑性が高い方が自尊感情が低いという、仮説通りの結果が確認できた。

表11:self-esteem低群・高群での平均値と標準偏差
self-esteem
低群 (n=55)
self-esteem
高群(n=50)
側面数4.38 (1.71)4.38 (1.32)
使用項目数18.29 (2.49)18.78 (2.19)
使用肯定項目数8.65 (4.51)11.16 (4.80)**
使用否定項目数6.89 (3.87)4.24 (2.88)***
SC2.13 (0.55)2.20 (0.65)
SC(Pw)1.55 (0.73)1.79 (0.61)+
SC(Nw)1.29 (0.78)1.09 (0.80)
SC(Pm)1.53 (0.68)1.78 (0.62)*
SC(Nm)1.32 (0.62)0.92 (0.57)***
カッコ内は標準偏差
***p<.001 **p<.01 *p<.05 +p<.10



12. 考察

本研究では、TSTを実施して、被験者自身の意味づけに基づいたTST記述の分類から独自に自己複雑性を算出した。それらの総合的考察を行う。

 Woolfolk et al.(1995)が指摘したように、自己複雑性は肯定的な複雑性と否定的な複雑性においてその働きが異なることが、本調査でも確認できた。否定的な自己概念が複雑に分化している人は、Linville(1985、1987)の仮説とは逆に、ストレス反応などの否定的な状態が広がりやすいことがわかった。 つまりLinville(1987)が提唱した自己複雑性緩衝仮説(self-complexity buffering hypothesis)は、否定的な側面での複雑性では成立しないと、本調査でも結論付けられた。
 したがって今後の自己複雑性に関する調査では、必ず、肯定的自己複雑性と否定的自己複雑性を区別して取り扱うべきである。

 しかし、Woolfolk et al.(1995)をはじめとする多くの先行研究で否定的自己複雑性と抑うつ等の否定的感情の関連性が見い出され、また林・堀内(1997)の結果では否定的自己複雑性と自尊感情の低さの関連性が言われているにも関わらず、Woolfolkら法として算出した否定的自己複雑性SC(Nw)は、自尊感情との関連性はなく、また抑うつ感情を含む情緒的ストレス反応得点では10%水準の有意な傾向が見しか見られなく、その関係性は弱いものであった。 否定的なストレス反応が強い人は否定的な複雑性が高いであろうという仮説は、認知・身体的なストレス反応でのみ有意に確認できた。 またWoolfolkら法による肯定的自己複雑性SC(Pw)では、佐藤(1999)で見られたような緩衝効果も確認できなかった。
 仮説が期待通りに実証されなかったその理由の一つとしてWoolfolkら法による算出方法の妥当性が疑われた。

 一方、肯定的/否定的自己複雑性の算出中における総特性不揃いの問題を考慮した新たな算出法、mukai法による指標では、 否定的自己複雑性SC(Nm)は、ストレス反応、自尊感情の全ての尺度で有意な差が確認された。
 ストレス反応の緩衝効果、つまりは肯定的自己複雑性とストレス反応との関係は、SC(Pm)と情緒的ストレス反応の間においてのみ確認できた。情緒面で関係性が見られたことは、佐藤(1999)が肯定的自己複雑性が陰性情緒反応を和らげているという結果に一致している。  また、顕著な有意性は示されていなものの、認知・行動面のストレス反応でもSC(Pm)による緩衝効果の傾向が見られた。 否定的自己複雑性によるストレス反応の広がりも見られ、Woolfolk et al.(1995)などの結果と一致している。
 自尊感情においても、Woolfolkら法と異なり、自尊感情が高い人は肯定的自己複雑性が高く、逆に自尊感情が低い人は否定的自己複雑性が高いという結果が示されたのである。特に否定的自己複雑性SC(Nm)は0.1%水準で高低群間の有意差を示し、大いに仮説に近づいた。
 Woolfolkら法の指標に比べて、このmukai法による指標は比較的Linvilleのモデルをよく反映していると結論付けられよう。

 自己複雑性の指標として、TSTを用いた自由記述法ならびに、mukai法によるオリジナル算出法を提案した。そしてそれらの有効性を、各種先行研究の結果よりも明確に実証することができた。



13.今後の自己複雑性について

 最後に、自己複雑性の今後の発展期待を記す。
 現在の自己複雑性の概念は、Linvilleのモデルと指標Hが専らその地位を占めている。一方、認知的複雑性は、先述したように多様な研究者たちがそれぞれの概念と算出法を用いいている。自己複雑性の概念はまだ歴史が浅く、理論や指標の正確さもあまり保証されていない。しかし、Linville(1985)が自己複雑性を提唱してから15年が経過した今、心理学研究の中で確実に自己複雑性の地位は確立されつつある。
 本研究が既存の形容詞リストの使用を問題視して新しくTSTを用いた測定を試みたように、自己複雑性の測定法あるいはモデルそのものが積極的に改善されることを期待する。
 自己を多面的に捉える研究はすでにいくつか有名なものがある。例えば桑原(1991、1998、1985、1986)の人格の二面性についての研究や、岩熊・槙田のTSTクラスター分析などがある。また榎本(2000a、2000b)は自己にとっての重要な側面数をそのまま複雑性の指標とする研究報告を行っている。これら多様なアプローチから、自己複雑性研究を中心に、自己についての研究がより一層発展することを期待する。





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謝辞

この論文を書くに当たってお世話になった皆様に心からお礼を申し上げます。


ご多忙の中細かいご指導をくださり、そして何かとご心配をおかけしました、担当教官の榎本博明先生、本当にありがとうございました。

ご迷惑ばかりおかけしましたが、いつも優しく、数え切れないほどの相談を親身にお受けくださいました、尾崎仁美助手、本当にありがとうございました。

副査をお受けくださいました菅井勝雄先生、本当にありがとうございました。

いつも笑顔で進行状況を気にかけてくださり、手品やビールで励ましてくださいました、三木善彦先生、本当にありがとうございました。

担当外にもかかわらず、エントロピー等の相談に優しくお応えくださった狩野裕先生、本当にありがとうございました。

精神的なサポート、身体的な(食料)サポート、卒論提出直前の実質的なサポートなど、いつも支えてくださった教育心理学講座同回の皆さん、本当にありがとうございました。

温かく見守ってくださった院生の皆様、励ましてくれた後輩のみんな、そして、いつも応援してくれていた友達の皆々、本当にありがとうございました。